2020年7月、高齢者施設入所者の70代男性の血管内に空気を注入し殺害した容疑で、2021年12月8日、元職員の30代女性が逮捕されました。
事件は茨城県古河市の介護老人保健施設で発生しました。介護老人保健施設は常勤医師がおり介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)に比べて医療寄りで、点滴等に対応しやすいです。それ以上に高いレベルの医療が必要であれば療養型病院に入院することになります。つまり被害者は、入院するほどではないがある程度の医療が必要であったということになります。
被害者は点滴をされていました。点滴は腕等の静脈の中にカテーテル(管のこと)を留置して行います。点滴は液体を入れるバッグ、液体を通すチューブ、静脈内に留置するカテーテルの他、チューブの途中に三方活栓という部品を取り付けることが多く、そこにシリンジ(注射器の筒の部分)を接続することができます。当然ながら点滴は「液体を」「徐々に」入れるためのものですが、「空気を」「一気に」入れることも物理的には可能です。警察によると、容疑者は三方活栓に接続したシリンジから短時間に大量の空気を押し込んだようです。
静脈内に空気を入れると生命に関わるのでしょうか。実際のところ、少量であればまず何の症状も出ません。静脈内に入った空気は右心房、右心室、肺動脈を経て、肺で捕捉されます。この状態を肺塞栓、あるいは肺空気塞栓と呼ぶことができるでしょう。肺の血管が詰まれば一大事のように思われますが、実際には空気は速やかに吸収され特に問題は起きません。
しかし例外が二つあります。一つは稀ですが右左シャントが存在する場合です。肺を経由しない右心系から左心系への抜け道がある状態です。この場合、空気は肺で捕捉されることなく、左心室から全身の動脈に飛んでいきます。脳梗塞や心筋梗塞を起こし、致命的となる可能性があるでしょう。
しかし例外が二つあります。一つは稀ですが右左シャントが存在する場合です。肺を経由しない右心系から左心系への抜け道がある状態です。この場合、空気は肺で捕捉されることなく、左心室から全身の動脈に飛んでいきます。脳梗塞や心筋梗塞を起こし、致命的となる可能性があるでしょう。
もう一つは大量の空気が短時間で注入された場合です。一度に多量の空気が肺動脈に流れれば吸収は間に合わず、肺血流が途絶して致命的になる可能性があります。どの程度の量なら致命的かはよく分かっていませんが、200ml程度の空気を一気に流し込まれて死亡した事例が報告されています。今回の事件はこちらに相当します。
容疑者は介護職員として働いていましたが、看護師の資格を持っているようです。よく誤解されますが介護職員イコール介護士ではありません。介護職員は介護士のこともあれば、看護師のこともあり、特に資格を持たない人のことも多いです。看護師の資格を持つ人が介護職員として働くこと自体はそれほど珍しくありません。重要なのは、看護師であれば点滴の使用法に習熟していたと考えられることです。
容疑者は介護職員として働いていましたが、看護師の資格を持っているようです。よく誤解されますが介護職員イコール介護士ではありません。介護職員は介護士のこともあれば、看護師のこともあり、特に資格を持たない人のことも多いです。看護師の資格を持つ人が介護職員として働くこと自体はそれほど珍しくありません。重要なのは、看護師であれば点滴の使用法に習熟していたと考えられることです。
今後、裁判で問題になりそうだと想像されるのは、この殺害方法の証明の難しさでしょう。どの程度の空気が静脈に注入されれば人は死亡するのか、実験が不可能のため正確なところは誰にも分かりません。また、司法解剖で肺空気塞栓による死亡と証明することも簡単とは思えません。空気の検出は解剖よりも死後画像診断の方が適しますが、やっているかどうか。
命を守る立場の人間が殺人に及んだのが事実とすれば非常に恐ろしい事件です。今後も注視したいところです。
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